まだこんなこと言ってる

ビジネス界の雄(?)として知られる日経ですら、まだこんなことを言っています。

だが暗号を解読される不安は,完全にはぬぐい切れない。

確かに、暗号は 100% 確実なものではないし、公開鍵暗号は初めから「絶対に破られない」ことを狙っていません。ある有限時間以内に破られなければ現実的に問題ない*1、ことを安全性の根拠にしています。
ただ、頭のとんがった上司や、脂ぎったオジさん連中が、いくら暗号化されているとはいえファイルが流出したことを不安がる気持ちは理解できます。
でも、世の中には直感的な指標と理論上の指標に大きな違いがあるものならいくらでもあります。例えば、クレジットカードの番号を SSL 暗号化リンク上で受け渡しすることにリスクを感じる人でも、飲食店の店員にカードを渡すことは平気です。数値的には、後者のほうが確実にリスキーです。また、社用車で出張することと、飛行機で出張することを比べると、前者で事故に遭う確率のほうが絶対高くとも、やはり飛行機のほうが「気をつけてね」という言葉をかけられやすいでしょう。数値的には、一生の間に飛行機で事故に遭う確率はクルマの交通事故よりも低いことになっています。
昔はともかくとして、今、飛行機に乗るのが怖いなどと言ったら、ビジネスマンとして笑われるでしょう。「いくら暗号化されているとは言ってもねえ」というオジサンは、まさに数十年前に初めて飛行機に乗った人と同じ心境な訳です。いわく、

いくら確率が低いとは言ってもねえ。空気より重い金属でできている訳だしねえ。

いずれ、暗号理論の基礎くらい高校あたりで教わるようになれば、冒頭のようなことはなくなってくるでしょう。確かにそのためには、OS やアプリケーションの設計者にも注意が必要になってきますけどね。いくらブラウザでやりとりされる情報が暗号化されていても、ローカルキャッシュが平文でディスク上に残されていたら、なんにもなりませんから。

*1:例えば、素数 p と q の積が与えられたとき、これが素因数分解できることは自明だが、有限時間以内に計算することが困難である、など NP 完全問題などの整数論を根拠としています。