無線ブロードバンドで定額制は実現できるか?

今後、無線データ通信でも定額制(flat rate)が普及してくると思いますが、いま普及している PHS による定額制と、次世代の定額制とは分けて考えなくてはいけません。前者の定額制の根拠は、音声通信の携帯電話への移行によりインフラ容量に空きが増えていることですが、新たに構築するシステムでは、そうはいかないでしょう。
課題の一つとして、ある通信セッションを張ることでインフラのリソースを固定的に消費するシステムでは、そのセッションの存在そのものがコストとなることがあります。
話は逸れますが、電話の世界では「呼量」という考え方があり、複数の利用者による通信量を確率統計量として扱っています。たとえ加入者 100人を収容するシステムであっても、常に 100人分のリソースを確保している訳ではなく、ある瞬間を考えたときに最大でも加入者の 1/10 しか電話を利用しないならば、回線を 10人分だけ確保しておけば良いことになるわけです。これはコストを最小限に抑えるためですが、逆にいうと、このような手法で加入者全員に定額サービスを提供することは不可能です。例えば、伝統的に音声通話は回線交換なので、10人分だけを確保したシステムでは、どうやっても同時に 11人を収容することはできません*1
今後のデータ通信サービスで定額制を実現するためには、通信セッションの確保による定常コストを最小限とすることが求められます。また、セッション容量の提供も best effort となるでしょう。このようなシステムの実現には、利用者数指向(user entitiy oriented)のシステム設計よりも、全体容量(帯域)の共有型が適しています。第 3.5世代携帯電話を初めとする無線ブロードバンド通信の技術動向を理解するとき、以上の点を吟味することが重要なわけです。

*1:ADSL インターネットで定額制を提供できるのは、加入者アクセスにて 1加入者に 1回線を固定的に割り当てており、かつ、ネットワークが best effort サービスのみを提供しているからです。帯域保証を求めれば、キャリアは再び確率統計量の考察が必要になり、ユーザーは自分が予約した帯域のコストを直接的間接的に負担しなくてはなりません。