カーナビと戦わない地図
今までこのような地図に出会わなかったのが不思議です*1。昭文社のライトマップルという道路地図がそれです。
- 出版社/メーカー: 昭文社
- 発売日: 2005/07
- メディア: 大型本
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カーナビを使えば、常に現在地を好みの縮尺で表示でき、また目的地への経路は明確に示されます。また、旅行のプランニング中は、無料でネット地図を自由に閲覧できる時代です。紙の地図がこれらと正面から戦っても勝ち目はないでしょう。今後は、電子化された地図の苦手な領域にフォーカスしなくては生き残れなくなるはずです。私としては、紙の地図に求めるのは次のようなことです。
- 携行性
- 一覧性 (俯瞰性)
- 高速なランダムアクセス
また、一覧性に大きく関わりますが高精細な表示も、まだまだ紙のメディアに分がありそうです。
携行性
クルマで常にふらりと遠出をする人にとって、一つあると便利なのが全日本地図です。私は東京地図出版の 20万分の 1 地図を持っていて、連泊の遠出には必ずこれを持参します。いくつかの出版社から同種の地図が売られていますが、私はこれを愛用しています。残念ながら選んだ理由は忘れました。
しかしながら、さすがに全日本地図は大きすぎで、また、目的から考えても頻繁に買い換えるほどのものではありません。さらに、近郊をドライブするときには余計な情報が多すぎランダムアクセス性を落とす弊害があります。今回買ったライトマップルは、神奈川県だけを 10万分の 1 で、3.6mm の厚さに収めた秀逸なものです。
一覧性 (俯瞰性)
カーナビや Google Maps などは、全国どこでも詳細図で呼び出すことのできる素晴らしいものですが、例えばルートの全体像を確認することは苦手なものです。一つは画面の解像度の問題で、印刷物が容易に実現できる 1000dpi 程度の解像度を A3 サイズで安価に実現できるにはまだ時間がかかるでしょう。
このような目的には、10万分の 1 か、あるいはそれより高縮尺の地図が役に立ちます。その点で、ライトマップルの縮尺は実用的なものです。特筆すべき点は、神奈川県内のほぼ全ての領域を 10万分の 1 の固定縮尺で網羅していることです。これは気づきにくい点ですが、これは偶然そうなったというものではなく、計算され尽くした設計といえるでしょう*3。
なぜこれが重要なのか。地図でルートなどを俯瞰する場合、ページを繰った瞬間に勝手に縮尺が変わるというのは、人間の直感を大きく乱すばかりでなく、不連続な映像を頭の中で結合する認知作業を邪魔するものです。電子地図がなかった時代は、都市部と郊外部で縮尺を変えるのはある程度やむを得ない方法だったと思いますが、その重要性は失われつつあると言えます。ライトマップルでも、都市部は 3万分の 1 で提供していますが、同時に全ての領域で 10万分の 1 を併せて提供しています。低縮尺の地図を切り捨てたことで、このような贅沢な収録でも 4mm 以下という薄手に収められたのだと思います。
高速なランダムアクセス
最後はランダムアクセス性です。カーナビや Google Maps も進化を続けていますが、地図を自在に操るにはある程度の時間が必要です*4。これはユーザーインターフェイス技術から来る問題で、LCD タッチパネルやマウスの操作性は、ページを実際に指で繰ることができる紙の地図には敵いません。
最後に雑感
多目的型の道路地図帳が多く売られていますが、これらはいずれ電子技術に対抗できなくなるはずで、今後はある程度割り切った特定用途向けの地図が求められると思います。ライトマップルも、書中では明言を避けていますが、電子地図利用者のための補助的な用途に絞っていることは間違いないと思います。社内でも議論があったと思われますが、私はこのような編集方針に拍手を送りたいです。価格も 600円と、毎年買い換えるのも惜しくないものです。何冊か買って、車内や家の居間など別々に置いておくのも便利だと思いました。
最後に、唯一残念に思ったのは、書店での扱いが無造作なことです。新宿紀伊国屋の本店でもこれですから、一般の小規模書店で見つけるのは大変だと思います。ネット書店でも同様でしょう。おそらく書店がこのような地図の売り方を心得ていないのではないでしょうか。売れ行きが芳しくなく、出版社がこのシリーズから撤退してしまうことのないよう、今後も期待しています。
出版社へのリンク: http://ec.shop.mapple.co.jp/shopdetail/001004000022/order/