レンズが小さいカメラは暗所に不利か?

同僚が新しいデジカメを買いました。ニコンCoolpix S51 です。
ビッ○カメラで購入する際、店員にレンズ沈胴の S700 との違いを尋ねたところ、レンズの大きなカメラのほうが室内など暗所での撮影に有利だと言われたそうです。しかし同僚はレンズ沈胴カメラの故障を多く経験しているので、結局 S51 を選んだということです*1
果たして、レンズの小さなカメラは本当に暗所に弱いのか? 言い換えると、F 値は大きくなるのでしょうか。レンズ交換型の一眼レフ利用者の間では、口径の大きなレンズが F 値が小さいというのは常識で、上記の店員さんの言葉はあながち間違っているとは思えません。しかし仕様書を見ると、たとえばレンズ口径が数ミリしかないカシオ Exilim S20 の F 値は 3.5 で、ニコン D70s の標準レンズと大差ありません。
実は F 値は別名「口径比」と呼ばれ、レンズの焦点距離と口径の比率で決まります。口径が 1/10 でも、焦点距離が 1/10 なら F 値は変わらないという訳です。しかしそうなると、今度は「いくら F 値が小さくても、焦点距離が短くては画角が広くなってしまうではないか」という疑問が生じますが、実は焦点距離と画角の関係は、フィルムの大きさ(あるいは撮像素子の大きさ)に影響を受けます。よくカメラのカタログで、焦点距離のところに「35mm フィルムカメラ換算」と書いてあるのはこのためです。例えば撮像素子の長辺が 3.5mm しかないデジカメでは、同じ焦点距離でも、35mm カメラに比べて画角*2 は 1/10 になってしまう、ということです。まとめると、たとえレンズの口径が 1/10 になったとしても、撮像素子の大きさが 1/10 であれば、レンズの実質的な明るさは変わらない、ということです。これは物理学的な直感に従っていて、撮像素子の単位面積辺りのエネルギー密度が同じならば、得られる明るさは同じであろうという予想が成り立ちます*3
しかし、実はここに落とし穴が一つあります。それは、小さな撮像素子で同じ画素数を得ようとすると、画素辺りの素子面積が小さくなってしまうという問題です。つまり、同じ半導体技術を利用して同一の画素数を実現する場合、小さな撮像素子では感度の低い(あるいは S/N 比の低い)カメラしか作れないということになります。逆に言えば、小さなレンズでも画素数を抑えれば、十分に明るくてきれいな写真が撮れるカメラは作れるであろう、ということです。正直言って最近の 10メガピクセルなどというのは日常の撮影ではオーバースペックで、私個人としては、レンズの小さなコンパクトデジカメでは、画素数を抑えて S/N 比の高いカメラを作ってくれたほうが嬉しいように思うのですが、マーケティング上、そのような商品は企画されないのでしょう。
まとめると、こういうことです。

レンズの小さいカメラは、暗い場所の撮影に不向きである(もっとも、S/N の低いザラついた写真で構わなければ問題とならないだろう)。ちなみに、必要以上の高画素数の要求は、カメラの暗所撮影を不利にしている要因の一つだ。

ところで以下は余談になります。大抵のコンパクトデジカメでは数ミリ角の撮像素子を使ってますが、プロが使うようなデジカメでは最低 25ミリ、最近は 35ミリ角の撮像素子を使うこともあります。結局、高額な大口径レンズはダテに存在する訳ではない、ということですね。

*1:実際は、S51 も光学ズームは付いています。

*2:正確には三角関数になる。

*3:私は画像工学には素人なので、これはあくまでも自然科学上の直感です。