心霊現象をなぜ信じるのか

こういう話をすると、女性にもてないみたいですが。
今朝、電車の中で徒然なるままに、横の若い女性が読んでいる本を見たら、なんだか「波長」とかいうキーワードが目に飛び込んできました。「おー、若いのに電子工学、あるいは量子物理学でも勉強しているのかな?」と思ったのですが、なんだか様子が変です。心霊の波長とか、守護霊はあなたを見捨てない、とか、なんだかそういう文句ばかり出てきます。
本当は、私は手持ちの西村京太郎を読みたかったのですが*1、あまりの怪しさと女性の真剣な面持ちに圧倒され、ついつい中身を覗いてしまいました。疑似科学とは少し違うと思うのですが、こういう心霊とか守護霊とかいう話も、思わせぶりなロジックを持ち出して説明されると、人間は惹きつけられてしまうものなんだなあ、と、ある意味感心しました。
ところで、こういう「話」がただの体験談とか、私はこう思う、とかそういうほほえましい話を超えて、「これは定説なんだ、すでに科学的に解明されたことなんだ」というレベルに達したとき、空恐ろしさを感じるのは私だけでしょうか。世の中には悪意を持って人の弱い心に付け入ろうとする者もいますが、一方で、自分では鉄壁なまでに良心だ善意だと信じて、他人の自分の価値観を植え付けようとする人がいます。こうなると、悪意がないだけ、さらに手に負えません。
私の周りに、血液型によって食べて良い食材とダメな食材がある、という話に夢中になっている人がいます。彼が本心でそれを信じているとは思えませんし、それ以前に、そのような理論に本当に科学的非合理性があるかという判断は私にできません。問題なのは、ある人がそれをエンターテイメント、会話のネタとして楽しんでいるものが、別の人には、「あの人も正しいと言っている。世の中の常識らしい」として伝播してしまうことのように思います。この伝播を繰り返すことによって、ある風説が世の中で「誰もが知っている定説」と変化してしまうことが怖いです。
このところのインターネット時代において、どんな怪しげな理論も検索エンジンに容易に人の目に触れ、美しいフォントで目の前に現れると説得力が増します。また、情報の伝わりが格段に早くなっている今、周りの人の意見を「それって本当?」、というように一度、自分の思考のフィルタにかける作業は、10年、20年前に比べて格段に重要になってきていると思います。
ちなみに下の本は、私のお勧めの本です。私も子供の頃(中学校くらいまで?)は、ピラミッドパワーとか本気で信じていた類の人間であることを付記しておきます。

なお、疑似科学ニセ科学については以下が参考になります。

ちょっとした罠

上の本を読んでもらったほうが良いのですが、ちょっとした空想話をしてみます。これは、「悪意を持った人」が発信し、「善意を持った、しかし話を信じやすい人」が伝播させると、科学的根拠のない話に権威的後ろ盾を与えてしまうという可能性についてです。こういう「論理」を聞いたら「落とし穴はないか」と考えてもらいたいわけです。
ゲルマニウムを体の近くに置くと血行が良くなり、健康に良い」という話があります。科学的には、これを肯定する実験結果も否定する実験結果も出ていないので、大抵の科学者は無視していますが、それを良いことにうまいことを考えている人がいたとしましょう。その頭の良い人は、ゲルマニウムを先端に取り付けた「指圧器具」で、厚生労働省の認可を得た医療器具を売り出しました。指圧器具ですから医療機器として認可は取れるわけですが、その頭の良い人は、論理をすり替え、「ゲルマニウム厚生労働省に認可されている医療機器だ」と宣伝することができる訳です。これは、非常に強大な権威の後ろ盾になります。これが世の中に伝播し始めると、論理のすり替えが抜け落ち、「ゲルマニウム厚生労働省の認可を得ている」という「話」が「定説」になってしまうという訳です。
世の中には、いかにも巧妙な「科学的根拠」が溢れています。繰り返しますが、このような話が「お昼休みの話のネタ」として扱われているうちは良いのですが、間接的に、悪意を持った人の論理の後ろ盾をしている点が怖いわけです。お金の世界でも法律の世界でも、少数の頭の良い人たちが、大多数の普通の人たちを利用している話が多く聞かれます。お金の世界でだまされないためには経済学や金融工学を勉強しなくてはいけませんし、法律で痛い思いをしないためには法律を勉強しなくてはいけません。同様に、疑似科学から身を守るには、論理学と統計学を少しでも勉強しておくべきだと思います。論理学と統計学を知っていると、知らないひとを「だます」のは容易なことです。

ちなみにゲルマニウムについて

私の話など信じられないという人も、厚生労働省の話なら信じて頂けるでしょうか。ゲルマニウムを体のそばにおくことで血行が良くなる、ならない、という「科学的な」研究結果は出ていないようですが、世の中にはこれを健康食品としてしまう人間もいるらしいので、ぜひ、以下の情報を「参考」にして欲しいです。お役所を「盲目的に信じろ」とは言いませんし、また、お役人が「善意を持って人々の健康を願っている人」の邪魔をしている、とも言いません。でも、一度参考にしてください。
以下は、厚生労働省の web サイトから直接たどれる「国立健康栄養研究所」のホームページにある情報です。

ゲルマニウムの工業利用と産出

あまり心配していませんが、もしかすると世の中にはゲルマニウムを非常に高価な材料と偽って、これを非常識な価格で売買して利益を得ようとする人もいるかも知れません。そこで、経済産業省のホームページから、ゲルマニウムの工業的な扱いについて引用しておきます。

価格ですが、高純度金属としての形では、1グラム 130〜140円で取引されているようです。主な用途は、PET 樹脂用重合触媒、光ファイバー用添加剤、また、蛍光灯やブラウン管の蛍光体の原料として利用されているようですね。
国内では産出しないらしく*2、主に中国やベルギーからの輸入に頼っているようです。

*1:博士の愛した数式、は読了。

*2:この辺の資料は見つからなかった。