統計の教科書

昨日、エラそうなことを書いたので、何か良い参考書がないかと思って統計学の本を探しています。最初、2年間で 3刷も重ねている平易そうな本があったので、買ってみました。でも、これは大はずれでした。

図解入門よくわかる統計解析の基本と仕組み 改訂版 (How‐nual Visual Guide Book)

図解入門よくわかる統計解析の基本と仕組み 改訂版 (How‐nual Visual Guide Book)

(付記: この本 ↑ は、あまりお薦めしません。)
出だしは丁寧で、細かい定義から始まるのですが、3章の「理論分布」あたりから急速に駆け足になってきます。また、理論の背景や、他の理論との関係を丁寧に述べる代わりに、定義や数式が増えてきます。著者はおそらく網羅的に、要求されたキーワードを可能な限り盛り込もうとしたのではないでしょうか? ページ数は 200以上もあるのですが、なんだか消化不良で満足感が得られませんでした。
今日は、再度書店を訪れ、いかにも「教科書っぽい」参考書を探してみました。私の悪い癖で、最初に買った本を読むことで、どういう本が実際には優れているのか、という見当がようやく働くようになるのです。今日買った本はこれです。
初等統計学

初等統計学

まず最初に、昨日の本でまったく理解できなかった(大学で教わった気もするが、まったく忘れてしまった)χ自乗分布の理論背景(なぜこういう理論が必要か)とか、不偏分散がなぜ有用か、という話が明確に記述されている点に好感を持ちました。日本の多くの教科書は、いきなり用語の定義を数式で説明したり(数式権威主義?)、簡単な例 (さいころを n 回振ったとき…) が出てくるものの、あまりに導入が唐突で、それが今まで説明した理論でどうして取り扱えないか、なぜ新しい理論の導入が必要か、という説明がなおざりのことが多いのです。
次に正規分布の説明を見ると、「正規分布はその曲線を表わす式によって定義されるが、以下の章ではとくにこの式を使うこともないので、ここではそれを書かない」*1と来たではないですか! 日本で、ここまで大胆に言いきる教科書って少ないですね。物事の大切なところを重視し、本質でないところをバッサリ切りさる方針に、ますます共感しました。大抵、正規分布の数式を見たところで、学生が Gnuplotポケコン*2で曲線を表示させるくらいしか用途はないのです。ま、優秀な学生はそれを不定積分してみようとするのでしょうが、フツーの学生は式を見て、即座に断念します。
さらにこの教科書を気に入ったのは、ホーエル先生の人柄が文章や例題のユーモアに表れていて楽しいからです。日本の先生の執筆する教科書って、大抵無味乾燥で、例題もつまらないものです。TeXクヌース先生に限らず、欧米には自分の専門外にも造詣の深い先生を良く見掛けます。
最終的に、この本を買うことに決めた理由ですが、各章の先頭部分を軽く触っていくだけで、教科書の構成が俯瞰できることです。思い付いた順に筆を走らせたのではなく、理論を緻密に順序立てて構成していることが良く分かります。
なお、価格は 1,650円(税抜)と安価なことに驚いたことを付記しておきます。

*1:でも、訳者が脚注に式を入れてしまった。

*2:今はないですねー。